東京高等裁判所 平成5年(行ケ)203号 判決 1996年8月15日
東京都新宿区市谷加賀町1丁目1番1号
原告
大日本印刷株式会社
同代表者代表取締役
北島義俊
同訴訟代理人弁護士
赤尾直人
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
荒井寿光
同指定代理人
長島和子
同
石田惟久
同
関口博
同
吉野日出夫
同
幸長保次郎
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成3年審判第1388号事件について平成5年9月16日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和59年8月15日、特許庁に対し、名称を「光学読取表示を施した配送伝票」とする考案について実用新案登録出願(昭和59年実用新案登録願第124897号、以下「本願考案」という。)をしたが、平成2年12月4日、拒絶査定を受けたので、平成3年1月23日、審判を請求したところ、特許庁は、この請求を平成3年審判第1388号事件として審理するとともに、平成4年3月6日、実用新案登録出願公告(平成4年実用新案登録出願公告第9190号)を行ったが、訴外磯部正から実用新案登録異議の申立てがなされた。その結果、特許庁は、平成5年9月16日、実用新案出願登録異議の申立ては理由がある旨の決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月30日、原告に対し送達された。
2 本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載)
一辺が開封形の封筒体の中に、複写伝票(16)を切取り可能に綴り込んでなる配送伝票において、上記封筒体の上紙(10)を合成紙又は合成樹脂フィルム(22)で構成するとともに、この上紙(10)の、少なくとも荷受人、荷送人の住所、氏名の記入欄(18)の左右方向における領域から外れた位置に、マット処理層(24)を介して光学読取表示(20)を施したことを特徴とする光学読取表示を施した配送伝票(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願考案の要旨は前項に記載のとおりである。
(2) これに対し、本出願日前の出願であって、本願考案の出願後に出願公告された昭和59年実用新案登録願第102616号(平成1年実用新案出願公告第36620号公報参照。以下、同公報を「先願公報」という。)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、合わせて「先願明細書」という。)には、以下のとおり記載されている。
「この考案の配送票入り封筒型帳票Aは封筒1を構成し、配送表示票3aを兼ねる封筒上票21と封筒下票22との間に……配送票30が位置してなり、封筒上票21と封筒下票22は、封筒下票22の上辺、下辺および左辺に沿って塗布されている接着剤41により接着されてなると共に、配送票30の各票は、その左辺に沿って塗布されいる接着剤42により接着されて一体化されており」(先願公報3欄29行ないし38行)
「封筒上票21には、機械読取り情報の一種であるバーコードBを設け、バーコードBの表面を透明保護剤であるニスNによりオーバーコートしてなるものである。」(同公報4欄4行ないし7行)
「配送票30の各票は、右辺側が封筒1より段階的に突出しており、……切り取りミシン目52から切り取り、部門毎に事務処理が行い易いよう営業店控票3b側からの筆圧により複写がとれるよう複写構成となっている。」(同公報4欄28行ないし33行)
「封筒上票21は、……第9図イに示す如く、用紙FとポリプロピレンフィルムPとを接着剤45により一体的に貼着し、ポリプロピレンフィルムP面を封筒表面とし構成するものであり、この場合においては、筆記性、印刷適性を良好とするために、ポリプロピレンフィルムPの表面をニスMでマット状にコートする」(同公報5欄12行ないし23行)(別紙図面(2)参照)
(3) 本願考案と先願明細書記載の考案(以下「先願考案」という。)とを対比すると、
ア 先願考案の「配送票」、「封筒型帳票」、「封筒上票」、「バーコードB」は、それぞれ、本願考案の「複写伝票」、「配送伝票」、「封筒体の上紙」、「光学読取表示」に対応する。
イ また、先願明細書には、先願考案について、封筒上票が、用紙FとポリプロピレンフィルムPとを接着剤により一体的に貼着した合成紙である点、及び、封筒上票の表面をマット状にコートした点が記載されている。
ウ したがって、両者は、
「一辺が開封形の封筒体の中に、複写伝票(16)を切取り可能に綴り込んでなる配送伝票において、上記封筒体の上紙(10)を合成紙又は合成樹脂フィルム(22)で構成するとともに、この上紙(10)に、マット処理層(24)を介して光学読取表示(20)を施した配送伝票」
である点において一致する。
エ そして、両者は、以下の点において一応相違している。
本願考案の光学読取表示は、少なくとも、荷受人、荷送人の住所、氏名の記入欄(18)の左右方向における領域から外れた位置に施されているのに対し、先願考案の光学読取表示は、図面によれば、荷受人、荷送人の住所、氏名の記入欄から外れた位置に施されている点
(4) 次に、相違点について検討する。
上記相違点における本願考案の効果について、原告の平成4年12月28日付け手続補正書の中においては、「記入欄に対し、荷受人、荷送人の住所、氏名を記入するに際しても、誤って光学読取表示を汚すようなことはなく、これが光学読取表示の読取りにおいて、誤動作を生ずる恐れがなく、常に読取りは適正に行うことができる。」と記載されているが、封筒体の上紙に光学読取表示を施すに際して、誤って汚されるような位置を避ける程度のことは、技術的に当然のことというべきであるから、本願考案において、光学読取表示を、少なくとも荷受人、荷送人の住所、氏名の記入欄(18)の左右方向の領域から外れた位置に施した点は、当業者が必要に応じてなし得る設計的事項と判断される。
(5) 以上のとおりであるから、本願考案は、先願考案と同一であり、また、本願考案の考案者が先願考案の考案者と同一であるとも、本出願時に本願考案の出願人が先願考案の出願人と同一であったとも認められないから、本願考案は、実用新案法3条の2第1項の規定により実用新案登録を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)、(3)アは認める。
同(3)イのうち、先願考案における、封筒上票の「用紙FとポリプロピレンフィルムPとを接着剤により一体的に貼着した」構成のものが、「合成紙」に該当することは否認し、その余は認める。
同(3)ウは争う。
同(3)エ、(4)は認める。
同(5)は争う。
審決は、先願考案における封筒上票が「合成紙」からなるものであると誤認したことにより、本願考案と先願考案における、封筒体(封筒上票)の構成の違いを看過し、本願考案と先願考案を同一のものであるとした点において違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 先願明細書においては、先願考案の封筒上票について、「用紙FとポリプロピレンフィルムPとを接着剤により一体的に貼着した」構成とする場合が記載されているが、このように、接着剤により天然紙を合成樹脂フィルムに積層したものは、いわゆる「ラミネート加工紙」に該当する。
しかしながら、ラミネート加工紙は、以下に述べるとおり、本願考案の「合成樹脂フィルム」に当たらないことはもとより、「合成紙」にも当たらないものである。
(2) すなわち、
ア 合成紙についての通常の技術概念からみて、ラミネート加工紙が合成紙に該当しないことを裏付ける技術文献は、甲第5号証以下多数存在し、その記載内容は別表に記載のとおりである。
そのうち、特に、甲第10号証(日本規格協会編「JISハンドブック紙・パルプ」昭和60年版・財団法人日本規格協会昭和60年4月12日発行40頁)は、JIS規格を記載したものであるが、そこにおいては、合成紙について、「合成高分子物質を主な素材とし、……これを紙化加工したもの」と定義している(なお、「主な素材」以外の素材とは、合成高分子物質を紙化する上で必要な充填材等の従たる物質を意味する。)ところ、ラミネート加工紙は、合成高分子物質(合成樹脂フィルム)を常に「主な材料」とするものではなく、また、それを「紙化加工したもの」でもないから、JIS規格においても、合成紙からラミネート加工紙を除外していることは明らかである。
イ これに対し、被告は、ラミネート加工紙も合成紙に含まれることを示すものとして、乙第1号証(井上啓次郎著「石油から生れた わたしは合成紙」日刊工業新聞社昭和44年7月30日発行)、乙第2号証(森賀弘之著「入門・特殊紙の化学」株式会社高分子刊行会昭和51年6月20日発行)、乙第3号証(伊保内賢外2名編「ポリマーフィルムと機能性膜」技報堂出版株式会社平成3年4月20日発行)、乙第6号証(社団法人高分子学会編「高分子材料便覧」株式会社コロナ社昭和48年2月20日発行)を引用するが、そのうち、乙第1号証における合成紙の定義は、科学技術庁資源調査会による「合成紙産業育成に関する勧告」に基づくものであり、かつ、その「勧告」は、一定の政策上の目的の下になされた単なる提案にすぎないものである。また、乙第2、第3号証における合成紙についての各記載も、特定の著者又は編集者の見解にすぎないものであり、更に、乙第6号証も、合成紙の範囲について、乙第1号証の意見を踏襲することを明言しているものにすぎないから、乙第1号証と同様のものである。なお、上記乙第3号証においては、ラミネート加工紙である「オーパー」を合成紙に分類する内容も記載されているが、甲第18号証(「繊維学会誌」48巻6号(平成4年6月号))の記載からみるならば、「オーパー」の研究開発に携わった技術者自身が、それが合成紙の範囲に属さないことを明らかにしている。
ウ 以上のとおりであるから、合成紙中にラミネート加工紙を含めないことは、業界の通説というべきである。
明細書の技術用語は、学術用語を使用することが要請されており(実用新案施行規則様式3、7項)、かつ、明細書の用語一般についても、その有する普通の意味で使用されることが要求されている(同3、8項)。それらをも考慮すると、本願考案における「合成紙」については、そこからラミネート加工紙を除外することこそ、上記の「学術用語の使用」及び「普通の用法」に合致するものというべきである。
したがって、先願考案は、上紙として、ラミネート加工紙を用いる構成を開示しているが、「合成紙又は合成樹脂フィルム」を用いる構成を開示しているものとはいえないというべきであるから、本願考案と先願考案は、「封筒体の上紙を合成紙又は合成樹脂フィルムで構成する」点において一致するものではない。
(3)ア また、ラミネート加工紙は、合成樹脂フィルムと天然紙とが表裏に積層された構成のもの(片面形)に限定される訳ではなく、その他に、天然紙の両側を合成樹脂フィルムにより積層した構成のもの(両面形)、更には、合成樹脂フィルムの両側を天然紙によって積層した構成によるもの(サンドイッチ形)も存在する。
イ そのため、仮に、本願考案における「合成紙又は合成樹脂フィルム」にラミネート加工紙が包含されるとするならば、当然にサンドイッチ形のラミネート加工紙も包含されることになるが、本願考案の封筒体の上紙としてサンドイッチ形のラミネート加工紙を使用した場合には、本願考案の構成からみて、必然的に天然紙の上にマット処理層を設けることにならざるをえない。
しかしながら、これでは、「光学読取表示はマット処理層によって強固に上紙上に保持することができ、これがため、この配送伝票を品物に貼着して配送するに当り、配送行程の各部署において、例えばペン形光センサー等で光学読取表示上を擦動しても、この表示は剥離し摩滅することはなく、従って読取りに適正を欠くようなことはない。」(本願考案の登録出願公告公報5欄5行ないし11行。以下、同公報を「本願公報」という。)という本願考案固有の作用効果を奏することはできない。
このことは、片面形のラミネート加工紙について、天然紙を上側とした場合においても、同様である。
ウ そうすると、本願考案の「合成紙又は合成樹脂フィルム」にラミネート加工紙を包含するとした場合には、考案の作用効果を奏することができない構成が当然に含まれることになり、この点をクリアするためには、両面形のラミネート加工紙を使用するか、又は、片面形のラミネート加工紙について、合成樹脂層を上側として使用することが要求されることになる。しかしながら、本願考案の請求の範囲には、このような点について何ら記載されておらず、考案の詳細な説明においても、この点に関する明確な記載はない。
そうすると、本願考案の「合成紙又は合成樹脂フィルム」にラミネート加工紙を包含させた場合には、必然的に、本願考案の基本的な作用効果を奏することができない構成、すなわち、未完成考案の構成も包含されるということになる。
無論、このような帰結は背理であるが、このことは、「合成紙又は合成樹脂フィルム」にラミネート加工紙を包含させることが誤りであることに他ならない。
エ この点について、被告は、本願考案においてマット処理層を設ける目的は、封筒体の上紙を「筆記又は複写可能」にすることにあり、この点を考慮するならば「合成紙」からラミネート加工紙を排除する理由はないとし、ラミネート加工紙については、「筆記又は複写」に適さない合成樹脂フィルム部分を上側にしてマット処理層を形成し、「筆記又は複写」が可能な天然紙部分については下側にして使用することになると主張する。
しかしながら、合成樹脂フィルムは、通常、筆記、複写が不可能であるが、合成紙については、本来、それが可能なものである。また、本願考案は、光学読取表示が消去されないことを考案の目的としているものである(同公報2欄13行ないし16行)。
したがって、本願考案において、「合成紙」、「合成樹脂フィルム」の双方の上側に「筆記又は複写可能なようにマット処理層24」を形成するということは、単に、封筒体の上紙についての「筆記又は複写」をより確実にするというだけではなく、前記イにおける本願公報の記載のとおり、光学読取表示の剥離又は摩滅を防止し、それを強固に保持するという作用効果を得るためである。
ところが、ラミネート加工紙の天然紙上にマット処理層を設けるならば、上記のような作用効果を得ることができない。
したがって、本願考案の達成すべき目的、奏すべき作用効果を考慮した同考案における基本的技術思想に即しても、本願考案の封筒体の上紙として使用される「合成紙又は合成樹脂フィルム」中に、ラミネート加工紙が包含されないことは明らかというべきである。
(4) 更に、本願考案において、封筒体の上紙に、先願考考案に開示されたラミネート加工紙を用いた場合、下紙との結合の関係において、本願考案の作用効果を達成することができない。
ア 先願考案においては、ラミネート加工紙のうち、「用紙F面」を、「封筒表」すなわち上紙の表側とすることにより、「マット状のニスコートを省くことができる」(先願公報5欄26行ないし29行)とされており、本願考案のように、マット処理層24を介して光学読取表示20を保存することを必須の条件とはしていない。これは、先願考案には、マット処理層によって、光学読取表示を上紙に強固に固着させ、保持させようという基本的技術思想が存在しないからに他ならない。
これに対して、本願考案においては、前記(3)のとおり、マット処理層によって、光学読取表示を上紙に強固に固着、保持させることが、考案の基本的要請とされているものである。
イ ところで、封筒体の上紙に、合成紙を使用した場合と、先願考案に示されたラミネート加工紙を使用した場合とでは、上記ラミネート加工紙の上側を合成樹脂フィルム部分、下側を天然紙にしたとしても、接着剤による上紙と下紙との接着強度の点及び水の浸入による上紙のカールの有無の点において大きく相違する。
すなわち、一般に、配送伝票の入口部分が風雨に曝された場合には、上紙と下紙との接着部分に雨水が浸透しやすいが、先願考案のように、上紙としてラミネート加工紙を使用し、かっ合成樹脂フィルムをその上側、天然紙部分を下側とした場合には、天然紙部分は、雨水等の浸入により急速に紙相互の強度を失い、かつ、接着剤から容易に剥がれやすくなり、光学読取表示をマット処理層によって強固に上紙上に保持すること及びその適正な読取りを行うことが不可能になる。
ウ このことは、原告により行われた実験の結果(甲第8号証及び甲第19号証)からも明らかである。
すなわち、上記実験は、封筒体の上紙としてラミネート加工紙(先願考案と同様の、延伸ポリプロピレンと天然紙によるもの)を使用した場合と、合成紙(発泡ポリプロピレンを素材にしたもの)を使用した場合のそれぞれについて、封筒体の開口部にクリップを挿入し、テンションがかかった状態として、封筒端部に水を滴下してなされたものであるが、その結果、ラミネート加工紙を使用したものは、上紙が下紙(タック紙)から剥離し、カールするに至ったが、合成紙を使用したものは全く剥離が生じなかった。なお、そこにおいて用いられた接着剤は、アクリル酸エステル系共重合体であり、配送伝票の上紙と下紙の接着に用いられる典型的なものである。
封筒体の上紙が下紙から完全に剥がれてしまった場合には、光学読取表示の読取りが不可能になることは当然であり、また、上紙が下紙から完全に剥がれるまでには至らず、上紙のカールが生じるにとどまった場合においても、その読取りにあたっては、光学読取表示に対し、センサーによる大きな擦動力を必要とし、必然的に、光学読取表示を剥離、摩耗させ、読取不能もしくは読取誤差を生じさせることになる。
エ したがって、本願考案においては、先願考案におけるようなラミネート加工紙の使用は予定されていないものというべきである。
オ なお、前記ウの実験結果に関連し、
(ア) 被告は、本願明細書においては、上紙と下紙との接着を強固にすることについての記載がないと主張する。
しかしながら、その事項については、たとえ明細書に明示されていなくとも、本願考案の基本的技術思想を達成するために当然に必要なことであるから、客観的に認定することが可能である。
(イ) また、被告は、本願考案の登録請求の範囲には「接着剤」の記載がないから、上紙と下紙の固着方法は接着剤に限られないと主張する。
しかしながら、本願考案の登録請求の範囲には「下紙」についても記載がないが、本願考案が「配送伝票」についての考案である以上、「下紙」の存在を前提とするものであることは技術上当然であり、そうであれば、「上紙」と「下紙」の接合に関する「接着剤」が存在することも当然の技術的事項というべきである。
(ウ) 更に、被告は、前記ウの実験報告では、耐水性のない接着剤であるアクリル酸エステル系共重合体による接着剤が使用されているが、接着剤には耐水性のあるものも存在するのであるから、上記実験報告は完全なものではないと主張する。
しかしながら、上記実験において、同一の接着剤を使用したにもかかわらず、上紙として、合成紙を使用した場合と、ラミネート加工紙を使用した場合について結果が分かれたということは、ラミネート加工紙についての実験結果が、水溶性である接着剤自体の性状の変化によるものではなく、水による上紙の性状の変化によるものであることを示すものである。また、水溶性の接着剤は、配送伝票における上紙と下紙の接着のため、頻繁に使用されているものであるから、水溶性の接着剤により、前記実験結果のような明白な相違が生じること自体、合成紙とラミネート加工紙との機能上あるいは作用効果上の相違を裏付けるものというべきである。
カ 以上のとおりであるから、本願考案の構成要件中における「合成紙」には、ラミネート加工紙が包含されるものではない。
(5) 本願考案の登録請求の範囲の記載においては、ラミネート加工紙の内部がどのように接着しているか及びラミネート加工紙のいずれの側が下紙12と接着することになるかについて、何ら明らかにしていない。このことは、本願考案の「合成紙」に、接着剤によって積層されたラミネート加工紙が包含されないことを示すものに他ならない。
ア すなわち、そもそも、配送伝票が上紙と下紙とからなり、その間が接着剤により接合されることは自明の事項であるが、明細書において「配送伝票」の構成を説明する場合には、当業者がその構成を具体的に知ることができるように、紙、フィルム、マット処理層等の各層と、接着剤との関係を明らかにすることが不可欠である。
そのため、本願明細書においても、上紙10と下紙12との間に介在する接着剤層14、下紙12と剥離紙30との間に介在する貼着剤層28がそれぞれ明示されており、また、先願明細書においても、封筒上票21(上紙)と封筒下票22(下紙)との間に介在する接着剤41、封筒下票と剥離紙Hとの間に介在する貼着剤41′、各配送伝票30の間に介在する接着剤42がそれぞれ明示されているほか、ラミネート加工紙を構成するポリプロピレンフィルムPと用紙Fとの間に介在する接着剤45についても明示されている。
このような本願明細書や先願明細書における各記載に照らすならば、仮に、本願考案において、「合成紙」の中に、先願考案におけるラミネート加工紙(片面型のもの)をも包含する趣旨である場合には、明細書中に、プラスチック系フィルムと天然紙との間に接着剤が存在することを明示するとともに、ラミネート加工紙のいずれの面が、接着剤14を介して下紙12と接着されているかをも明らかにしているはずである。
しかるに、本願明細書においては、それらの点を何ら明らかにしていないのであるから、本願考案の「合成紙」中にラミネート加工紙が含まれないことは明らかである。
イ この点について、被告は、本件における合成樹脂フィルムと天然紙との間における接着剤は、「合成紙」という紙の概念の中に含まれるべきものであるから、上紙と下紙という、紙と紙との間の接着剤とは同列に論ずることはできないと主張する。しかしながら、仮に、そうであるならば、本願明細書における「接着剤層14」も、「配送伝票」の概念に含まれるものとして明示される必要のないはずのものであるが、それにもかかわらす、本願明細書においては、そのようには扱われていない。そのことに鑑みても、被告の上記主張は失当というべきである。
(6) 本願考案の登録請求の範囲においては、封筒体の上紙について、「合成紙又は合成樹脂フィルム」からなるものと記載され、「合成紙及び合成樹脂フィルム」からなるものとはされていない。そうすると、本願考案の封筒体の上紙からは、「合成紙と合成樹脂フィルムとの積層によるもの」が除外されていることは明らかである。一方、前記(3)(4)からみるならば、封筒体の上紙として、天然紙と合成樹脂フィルムとの積層によるもの(ラミネート加工紙)が、上記の合成紙と合成樹脂フィルムとの積層によるものに比べて、機能的に劣るものであることはいうまでもない。
そうすると、本願考案の封筒体の上紙として、合成紙と合成樹脂フィルムとの積層によるものよりも機能上劣る、天然紙と合成樹脂フィルムとの積層によるもの(ラミネート加工紙)が含まれているとすることは明らかに背理である。
したがって、上記登録請求の範囲において、「合成紙又は合成樹脂フィルム」と記載されているということは、合成紙と合成樹脂フィルムとを積層した構成を排除するとともに、天然紙と合成樹脂フィルムとを積層した構成(ラミネート加工紙)をも排除していることが自明であるといわなければならない。
(7) 以上のとおりであるから、審決には、本願考案における「合成紙」を先願考案におけるラミネート加工紙に一致するものと誤認した点において、違法があるものというべきである。
第3 請求の原因の認否及び被告の反論
1 請求の原因1ないし3の各事実は認める。
同4は争う。
審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
2 取消事由についての被告の反論
(1) 審決を取り消すべき事由(1)の主張について
先願明細書に原告主張の記載があり、これが、いわゆる「ラミネート加工紙」に該当することは認め、ラミネート加工紙が本願考案の「合成紙」に含まれないとする点は争う。
(2) 同(2)の主張について
ア 乙第1ないし3号証、第6号証における合成紙の定義を考慮すれば、合成紙が、プラスチックフィルムに紙を貼り合わせたもの(ラミネート加工紙)を含むことは明らかである。
原告が主張する、甲第10号証(「JISハンドブック紙・パルプ」)における合成紙についての記載は、合成紙が合成高分子物質を「主な素材」とするとの曖昧な表現を用いており、また、これは、合成紙について、未だ明確な定義が確立していない(甲第5号証(「オールペーパーガイドー紙の商品事典上巻・文化産業篇」株式会社紙業タイムス社昭和58年12月1日発行、77頁参照))ことによるものである。したがって、JIS規格の「合成紙」の定義においても、それが、紙とプラスチックフィルムとの積層体(ラミネート加工紙)を排除しているものとは断定できないというべきである(仮に、「合成紙」が原告の主張するとおりの意味であるとするならば、甲第10号証において、そのように記載されたはずである。)。 また、乙第6号証(社団法人高分子学会編「高分子材料便覧」株式会社コロナ社昭和48年2月20日発行)は、高分子学会の編集によるものであるが、それが、乙第1号証(井上啓次郎著「石油から生れた わたしは合成紙」日刊工業新聞社昭和44年7月30日発行)の意見を踏襲しているということは、すなわち、高分子学会において、乙第1号証の意見を認め、合成紙として、プラスチックフィルムと紙とを貼り合わせたものを含めて定義しているということであるから、そのことからみても、合成紙には、客観的に、プラスチックフィルムに紙を貼り合わせたものが含まれるといえる。
原告の示すその他の甲号証は、いずれも特定の著者又は編集者の見解であるか、JIS規格と同等の曖昧な記載であるにすぎず、乙第1ないし第3、第6号証に示す「合成紙」の定義を否定できるまでのものではない。
以上のことから、合成紙という用語の普通の意味において、合成紙には、プラスチックフィルムに紙を貼り合わせたものが含まれるというべきである。
イ また、原告は、本件審判手続での異議申立てに対する答弁中において、先願考案における上紙が「合成紙」に該当することを認めていたものであるが、このことは、原告が、その段階においては、本願考案の「合成紙」がラミネート加工紙を含まないとする認識を有していなかったことを示すものである。原告が上記認識を有していなかったからこそ、本願明細書には、上紙と下紙との結合を強固にすることが全く記載されていないのである。
ウ 更に、後記(3)以下のように、本願考案の詳細な説明を参酌しても、本願考案の「合成紙」から合成樹脂と紙との積層体が排除されるものではないから、原告の主張は失当である。
(3) 同(3)の主張について
ア 原告の主張によっても、なぜ、天然紙上にマット処理層を設ければ、「光学読取表示はマット処理層によって強固に上紙上に保持することができ………この表示は剥離し摩滅することはなぐ、従って読取りに適正を欠くようなことはない。」という本願考案の作用効果を奏することができないことになるのか、不明である。
イ 本願考案は、「印刷面」、つまり封筒体の上紙上面が、多数人による取扱いや風雨に曝されることにより、汚れたり損傷するなどして光学読取りに誤りを生じさせるという、従来技術の問題点を踏まえた上で、上紙を「合成紙又は合成樹脂フィルム」とし、その上面に、筆記又は複写可能なようにマット処理層を形成し、その結果、光学読取表示は、マット処理層により強固に上紙上に保持され、剥離ないし摩滅することがなくなるというものである。
すなわち、本願考案は、封筒体上紙上面に対する問題点を意識し、上紙に対して改良を施したものということができる。
したがって、上紙上面に対する、多数人の取扱いや風雨の影響による問題点を解決するために上紙に要求される機能は、上紙上面に耐水性があり、強度があるということである。
このように、配送中の雨、擦れ等に対する強度を持たせることを前提として、紙と合成樹脂との積層体を配送伝票の上紙に用いた場合、上紙上面に紙の面が配置されることはありえない。
すなわち、配送伝票の上紙に、紙と合成樹脂との積層体を用いた場合、その上面として紙の面を配置するならば、上紙は、雨と摩擦により破損することとなる。これでは、上紙について、配送中の雨、擦れに対する強度を持たせるという前提を達成することができないこととなり、不合理であるから、本願考案の登録請求の趣旨及び考案の詳細な説明にその旨の記載がないとしても、本願考案の封筒体の上紙上面に、合成樹脂層が配置されることになることは明らかである。
このような使用形態からみるならば、本願考案の目的及び作用効果を考慮した場合においても、封筒体の上紙としての「合成紙」中に、紙と合成樹脂との積層体が含まれるとすることに何らの問題もない。
ウ 仮に、本願考案において、封筒体の上紙上面に、合成樹脂層が配置されるものであることが明らかとはいえず、その作用効果を奏することのできない構成が一部含まれるとしても、少なくとも、上記のとおり合成樹脂層を上面に配置すれば、本願考案の作用効果を達成することができるのであるから、「合成紙」から、紙と合成樹脂との積層体を排除すべき理由はない。
(4) 同(4)の主張について
ア 本願明細書においては、本願考案について、「接着剤を介することにより上紙と下紙との結合を強固なものにすること」についての記載がなく、原告の主張は、記載のない事項をもって、本願考案の上紙の構成に関する技術的論拠とするものであって、不当である。
また、本願考案の登録請求の範囲には、「接着剤」、「下紙」の記載もないから、それらの存在を本願考案の構成要件とすることもできず、そのため、本願考案における上紙と下紙との固着方法も、接着剤には限られないものである。
イ 仮に、本願考案における封筒体の上紙にカールが生じ、そのことにより、光学読取表示に対するセンサーの擦動時における摩擦抵抗が多少増加したとしても、本願考案の配送伝票が貼り付けられる配送品は、本来、配送中に、例えば配送品同士の接触等により強い力で擦れるおそれのあるものであるから、その上紙上に設けられる、筆記又は複写の可能を目的とするマット処理層は、カールによるセンサー擦動時における摩擦抵抗の増加程度により光学読取表示を維持できなくなるようなものではありえない。
ウ また、仮に、摩擦抵抗により、光学読取表示の剥離や摩耗が生じることがあるとしても、上紙上にマット処理層を設けるならば、光学読取表示は、マット処理層のないものに比較して、強固に上紙上に維持されることは明らかである。
エ 以上のとおり、本願明細書には、カールの発生等、封筒体の下紙と上紙の接着状態について何らの記載もない上に、本願考案においては、光学読取表示が、カールの発生等に関わりなく、マット処理層の効果により強固に上紙上に維持されるのであるから、原告の主張するように、接着剤を介して、封筒体の上紙と下紙との結合を強固にするということが、上紙を、ラミネート加工紙を除く合成紙又は合成樹脂フィルムにより構成するということの根拠になるものではない。
オ 更に、仮に、原告の主張するように、本願考案における「上紙」という表現から、「下紙」及び下紙との結合手段が本願考案の必然の構成であると解するとしても、本願考案を実施するにあたり、原告が甲第8、第19号証での実験に用いたような、非耐水性の接着剤が当然に使用されるべきものとはいえず、耐水性を有する接着剤等を使用することも可能なはずである。
そうすると、上紙と下紙との結合手段としては、非耐水性接着剤以外の結合手段も当然に含まれるはずであるから、非耐水性の接着剤による結合を前提として、本願考案における「合成紙又は合成樹脂フィルム」を採用した技術的論拠を検討することは正当とはいえない。
カ 更にまた、ラミネート加工紙のうち、天然紙の上下両側に合成樹脂を積層したものは、下面が合成樹脂であるから、原告のいう「合成紙」と同様に、強固に下紙に接着することができるはずである。
したがって、仮に、封筒体の上紙を、下紙と強固に接着させることが本願考案の技術的前提であるとしても、下紙と強固に接着しうるラミネート加工紙が存在する以上、本願考案の「合成紙」からラミネート加工紙を排除すべき理由はない。
また、配送伝票の上紙が大幅に剥がれた場合や、完全に剥がれた場合には、いずれも配送伝票そのものの機能が果たせなくなる。本願考案を実施するにあたり、配送伝票そのものの機能を果たすことができる程度に材質や強度が選択されるのは当然のことであり、配送伝票の破壊について上記のような極端な場合を想定するのは無用のことである。
(5) 同(5)の主張について
合成樹脂フィルムと天然紙との間の接着剤は、合成紙という紙の概念の中に含まれるべきものであるから、上紙と下紙という紙間の接着剤とは同列に論じることはできない。したがって、本願考案において、上紙と下紙との間の接着剤が記載され、「合成紙」中の接着剤が記載されていないからといって、合成樹脂と紙との積層体を「合成紙」から排除することは妥当ではない。
すなわち、「合成紙」をどの程度詳述するかは出願人自らの判断に任されており、また、合成樹脂フィルムと天然紙との積層体は一枚の合成紙という概念のものとして成り立ちうるから、「合成紙」について具体的な積層関係が記載されていないからといって、本願考案の「合成紙」から合成樹脂フィルムと紙との積層体によるもの(ラミネート加工紙)が排除されるということにはならないのである。
本願考案は、単層のものと複層のものとを総合して、単層で表現しただけにすぎないものというべきである。
(6) 同(6)の主張について
本願考案における封筒体の上紙は、雨水の浸食に対する機能のみによって選択されるものではない。したがって、ラミネート加工紙を含まない合成紙と、合成樹脂フィルムとの積層体が、本願考案の「合成紙又は合成樹脂フィルム」に含まれないとしても、上記の合成紙と合成樹脂フィルムとの積層体に比べて雨水等の浸食に対する機能が劣る、天然紙と合成樹脂フィルムとの積層体が、本願考案から当然に排除されるものとはいえない。
(7) 以上のとおりであるから、本願考案の「合成紙」に先願考案のラミネート加工紙が含まれるとした審決の認定判断には誤りはない。
理由
第1 請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。
また、先願明細書の記載内容が審決記載のとおりであること、先願考案の封筒上票における、「用紙とポリプロピレンフィルムとを接着剤により一体的に貼着した」構成が「合成紙」に該当することを除いた部分について、本願考案と先願考案が審決記載のとおり一致すること、本願考案と先願考案の間において、審決記載のとおりの相違点が存在すること、相違点についての判断が審決記載のとおりであることについても当事者間に争いがない。
第2 本願考案の概要について
成立に争いのない甲第2号証(本願公報)及び甲第3号証(平成4年12月28日付け手続補正書、以下「本願補正書」という。)によれば、本願考案の概要は以下のとおりである。
1 本願考案は、商品の移動を伴う業務において必要とされる配送伝票に関するものである(本願公報1欄16行及び17行)。
2 従来、運送会社、百貨店等で用いられる配送伝票は、紙製の数枚の伝票を綴り合わせてなるものであり、最下位の伝票と品物とを直接綴り合わせ、品物の流れに応じて、必要部署で必要な伝票を順次切り取り、使用するようになっている。ところが、従来の伝票では、通常、その印刷面が外部に露出しているため、品物が多数の人を経由して取り扱われたり、風雨に曝されたりすると、伝票の印刷表面が汚れ、損傷するという欠点を有していた(同公報1欄19行ないし2欄2行)。
そのため、昭和58年実用新案出願公開第76769号公報に掲載された考案においては、この点に改良を加え、複数枚の綴り帳票を袋状収納具内に収納固定することにした(本願補正書1頁9行ないし12行)。
3 しかしながら、上記公報に掲載された収納具付帳票においては、収納具を構成する被覆材に目視用番号が設けられ、その番号が、荷受人、荷送人の住所、氏名等の記入欄の右側隣に設けられていることから、記入欄への記入の際に、誤って目視用番号を汚すおそれがあり、そのため、目視用番号を光学的に読み取るにあたって、読取り装置に誤作動を生ぜしめるおそれがあった(同補正書1頁14行ないし2頁2行)。
4 本願考案は、上記のような問題点を解決するため、上記公報に掲載された収納具付帳票において、収納具を構成する被覆材に設けられた、目視用番号に相当する光学読取表示について、その読取りに誤りを生じさせないようにすることを目的として、要旨記載の構成を採用したものである。すなわち、本願考案においては、複写形配送伝票を綴り込んだ封筒体上に、マット処理層を介して光学読取表示を設けるにあたり、光学読取表示の位置を特定することによって、問題点の解決を図ったものである(同公報2欄12行ないし3欄3行、同補正書2頁4行ないし18行)。
5 本願考案の構成によれば、封筒体上の記入欄に、荷受人、荷送人の住所、氏名を記入するに際して、誤って光学読取表示を汚すということがなく、そのため、光学読取表示の読取りにおいて、その汚れによる誤操作を生じさせるおそれがなく、常に読取りを適正に行うことができるという作用効果が得られる。
しかも、本願考案においては、光学読取表示を、マット処理層によって強固に上紙上に保持することができ、そのため、配送伝票を品物に貼着して配送するにあたり、配送行程の各部署において、例えばペン形光センサー等で光学読取表示上を擦動しても、表示が剥離し摩滅することはなく、読取りに適正を欠くようなことはないという作用効果も得られる。
また、本願考案は、光学読取表示の上に、オーバーコート層を設けることにより、更にこの表示の損傷を防いで、読取りを完璧にすることができるという作用効果も有するものである(同公報4欄44行ないし6欄2行、同補正書4頁6行ないし5頁2行)。
第3 審決取消事由について
そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1(1) 原告は、本願考案の登録請求の範囲に記載された「合成紙」について、その通常の技術概念によるならば、先願考案の封筒上票における、「用紙FとポリプロピレンフィルムPとを接着剤により一体的に貼着した」構成の用紙(ラミネート加工紙)を包含するものではないから、審決において、本願考案の「合成紙」と先願考案のラミネート加工紙とを一致するものとしたことは誤りであると主張する。
(2) まず、成立に争いのない甲第5号証(「オールペーパーガイドー紙の商品事典上巻・文化産業篇」株式会社紙業タイムス社昭和58年12月1日発行、227頁及び228頁)によると、「ラミネート加工紙」とは、天然紙と、プラスチック、金属箔等を接着剤により貼り合わせた「紙」を総称するものであることが認められるから、先願考案の封筒上票に用いられるべき前記構成の用紙がラミネート加工紙に該当するものであることは明らかである(このことは、被告も認めて争わないところである。)。
(3) ところで、本願考案の前記実用新案登録請求の範囲には、「上記封筒体の上紙(10)を合成紙又は合成樹脂フィルム(22)で構成する」とのみ記載され、上記登録請求の範囲の他の記載を参酌しても、ここにいう「合成紙」の定義は一義的に明らかでなく、また、前出甲第2ないし第3号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明にも、本願考案における「合成紙」の定義に関する記載は存しないことが認められるから、ここにいう「合成紙」の定義は、本出願当時の技術水準に基づいて当業者が通常理解するところに従ってこれを定めるべきものである。
(4) 成立に争いのない乙第1号証(井上啓次郎著「石油から生まれた わたしは合成紙」日刊工業新聞社昭和44年7月30日発行、76頁及び77頁)、乙第6号証(社団法人高分子学会編「高分子材料便覧」株式会社コロナ社昭和48年2月20日発行、1172頁ないし1174頁)によると、科学技術庁資源調査会が、昭和43年に「合成紙産業育成に関する勧告」を発表したが、「合成紙」との用語は、それ以来広く使われるに至ったものであること、そして、同勧告においては、合成紙の定義について、「合成高分子物質を主要な素材として紙的性状を与えるもの」とするとともに、そこに掲げられた「製法による合成紙の分類」表中において、プラスチックフィルムと「紙との貼合わせ」によるもの(ラミネート紙)を、明確に、合成紙に含まれるものとして分類していることが認められる。
また、成立に争いのない乙第2号証(森賀弘之著「入門・特殊紙の化学」株式会社高分子刊行会昭和51年6月20日発行)によると、同号証においても、「フィルム法合成紙」の項目の下に、合成紙の製造法について、「プラスチックから紙様のものを得るためには1)表面をサンドラストする、2)液剤処理、3)紙とのラミネート(略)、などといったように紙としての不透明性や軽さそして印刷適性をもたせるために種々の方法が工夫されている。」(226頁24行ないし227頁2行)と記載され、合成紙中にラミネート加工紙が含まれるものとされていることが認められる。
更にまた、前出乙第6号証においても、前記科学技術庁資源調査会の勧告における「合成紙」の定義を前提にして、合成紙とは、「プラスチックスをベースとして従来のパルプ紙と同様の形状と物性と更に加工性を持っており、印刷・筆記分野や包装分野などに用いられるもの」(1172頁左欄14行ないし17行)と定義した上、合成紙を、構造、形状、擬紙化方法の違いにより3種類に大別し、そのうちの一つである「a)プラスチックフィルム擬紙化紙」の中に、「ⅱ)ベースフィルムの表面層を擬紙化したもの」があり、「これにはたとえば、(略)パルプや、紙をはり合わせたり付着させたりする表面ラミ法などがある。」(同頁右欄19行ないし28行)とするとともに、「表7・1 製法による合成紙の分類」中に、分子配向を「無延伸」及び「延伸」、構造を「複層」、工程を「紙とのはり合わせ」とするもの(ラミネート紙)及び「表7・2 擬紙化技術の分類」中に、「表面(層)擬紙化」の方法があり、その中に「表面ラミネート方式-パルプ紙とのはり合わせその他」が含まれる旨記載されていることが認められる。
(5) 以上の乙号各証の記載によれば、前記の科学技術庁資源調査会の「勧告」内容のほか、本出願前に出版された技術文献である乙第2、第6号証においては、いずれも合成紙にラミネート加工紙を含むことが明言されており、しかも、乙第6号証が高分子学会の編集に係るものであることをも考慮するならば、上記乙号各証等から、本出願当時、当業者は、本願考案における「合成紙」にラミネート加工紙が含まれると理解するものというべきである。
(6) この点について、原告は、前記(1)の主張を裏付けるものとして、別表記載の甲号各証を援用している。
ア そこで、別表記載の甲号各証について検討すると、前出甲第5号証、いずれも成立に争いのない甲第6、第7、第10、第11、第14ないし第18、第20ないし第22号証によると、甲第5号証においては、合成紙の定義について、「一般的には、合成樹脂を主原料として、その特長を残しっっ、木材パルプを主原料とした天然紙のもっ外観(白さ)・不透明性・筆記性など広範囲の印刷加工適性を付与したもの」(77頁右欄14行ないし17行)とされており、また、同号証にいては、合成紙の種類、製造法について、別表中の該当欄に記載のとおりの説明がなされていること、更に、甲第6、第10、第16、第20ないし第22号証においても、合成紙の定義について、別表中の各該当欄のとおり記載されていること(なお、別表中における、合成紙にラミネート加工紙が含まれないことについての原告の意見部分は除く。)、その他、甲第7、第11、第14、第15、第17、第18号証においても、合成紙の種類、製造法等について、別表中の各該当欄に記載のとおりの内容が記載されていること(なお、別表中における、合成紙にラミネート加工紙が含まれないことについての原告の意見部分は除く。)が認められる。
イ しかしながら、ア認定の甲号各証によれば、甲第10号証、第14ないし第18号証、第22号証は、いずれも本出願日である昭和59年8月15日後に刊行されたものであることが認められるから、合成紙の定義についての本出願当時の技術水準を認定する証拠たり得ないのみならず、これらの甲号各証を含めたア認定の甲号各証の記載内容を検討しても、ラミネート加工紙は合成紙に含まれないとする積極的記載は存しないし、これらの各号証に示された合成紙の定義に従っても、天然紙とともに合成樹脂をその不可欠の構成要素とするラミネート加工紙を合成紙に含めない趣旨であると理解することはできない。なお、前出甲第5号証によれば、同号証には、前記認定の合成紙の定義の前に、「まだ明確な定義は確立していないが」(77頁右欄13行、14行)と記載されていることが認められるが、前記乙号各証に照らすと、この記載があるからといって、当業者がラミネート加工紙は合成紙に含まれると理解する妨げとなるものではない。
ウ そうすると、上記甲号各証において、特に、前記調査会の勧告内容に反し、合成紙からラミネート加工紙を除外するのが相当であるとする旨の記載がない以上は、それらにおける合成紙についての記載が、原告の主張するように、前記調査会の勧告における意見内容を一部否定して、「合成紙」から殊更ラミネート加工紙を排除する趣旨のものであると断定することは困難であるといわざるをえない(以上のことは、甲第10号証がJIS規格を記載したものであることを考慮しても同様である。)。
(7) 以上からみるならば、本願考案の登録請求の範囲に記載された「合成紙」については、原告の前記主張のとおり、その通常の意義内容において、合成樹脂を用いたラミネート加工紙を含まないものと解することはできないといわざるをえず、なお、このことは、原告も、本件における審判手続の段階において自認していたところである(成立に争いのない乙第5号証(実用新案登録異議答弁書)4頁及び5頁参照)。
そうすると、この点についての原告の前記主張は失当であるといわざるをえない。
2(1) 次に、原告は、ラミネート加工紙については、片面形、両面形、サンドイッチ形が存在するところ、本願考案における「合成紙」にラミネート加工紙が含まれるものと解するとすると、本願考案は、光学読取表示をマット処理層によって上紙上に強固に保持するという本願考案の作用効果を奏することのできない構成(サンドイッチ形の構成、片面形の構成のうち天然紙が上紙の上面側となる構成)を含むことになるから、本願考案における「合成紙」は、ラミネート加工紙を包含しないものと解すべきであると主張する。
(2) しかしながら、成立に争いのない甲第23号証(社団法人高分子学会編「高分子材料便覧」株式会社コロナ社昭和48年2月20日発行、1183頁)によると、ラミネート加工紙の形態として原告主張の種類のものが存在することが認められるものの、その中の片面形ラミネート加工紙のうち、上紙の上側部分を合成樹脂、下側部分を天然紙として、合成樹脂層の上にマット処理層を設けた構成のもの(先願考案の構成のもの)については、それが、本願考案における作用効果を奏するものであることは、原告の上記主張自体からも明らかである。
(3) そうであれば、原告の上記主張の事由により、本願考案の「合成紙」がラミネート加工紙を含まないものと解すべき理由はなく(ラミネート加工紙を含むと解した上で、後は、考案の目的、作用効果を考慮して、ラミネート加工紙の具体的な形態を選択する問題にすぎない。)、原告の上記主張は失当である。
(4) なお、原告は、上記主張に関連し、本願考案の目的について、光学読取表示が消去されることのない構成を備えることにあるとし、その点を考慮しても、本願考案の「合成紙」にラミネート加工紙が含まれるものとはいえないとする趣旨をも主張するが、本願考案の目的が上記の点にあるとすることは、本願明細書に記載のない事項である(前出甲第2、第3号証によると、本願考案の当初明細書にはその旨の記載があった(甲第2号証2欄13行ないし16行)ものの、その後の手続補正書により削除の上、前記第2、4のとおり補正されたものであることが認められる。)から、本願考案について、上記目的に照らした判断を加える必要はないものというべきである。
3(1) また、原告は、本願考案の封筒体の上紙にラミネート加工紙を用い、その上側を合成樹脂フィルム、下側を天然紙にしたとしても、その構成においては、上紙に合成紙を使用した場合に比べて、上紙と下紙の接着剤による接着強度、伝票入口部分に水が浸入した場合の上紙の剥離及びカールの有無について、大きく異なり、光学読取表示を上紙上に強固に保持し、適正な読取りを行うという本願考案の作用効果を得ることができないとし、そうであれば、本願考案の「合成紙」にラミネート加工紙が包含されるものとはいえないと主張する。
(2) そして、成立に争いのない甲第8、第19号証(いずれも原告作成の「実験報告書」)及び弁論の全趣旨によると、本願考案に係る構成の封筒体の上紙として、延伸ポリプロピレンと天然紙によるラミネート加工紙を用いた場合と、発泡ポリプロピレンによる合成紙を用いた場合のそれぞれについて、それらをいずれも段ボール紙の上に貼着し、封筒の開口部にクリップを挿入して常に外力が加わった状態にした上、封筒端部(2箇所)にメスピペットにより5ccの水を一時に滴下して、その後の変化を比較するという実験を行ったところ、発泡ポリプロピレンによる合成紙を上紙とした封筒体については変化はみられなかったが、ラミネート加工紙を上紙とした封筒体については、2ないし3分後に上紙と下紙(タック紙)との間に剥離が生じ、剥離が停止する25分ないし30分後までの間に、平均約4.7ないし8センチメートルの剥離が生じるという実験結果が得られたこと、なお、上記封筒体の下紙にはいずれもタック紙が用いられており、上紙と下紙の接着剤については、水溶性のアクリル酸エステル系重合体によるものが用いられたものであることが認められる。
(3) しかしながら、前出甲第2、第3号証によると、本願明細書中においては、本願考案の作用効果が、封筒体の上紙と下紙の接着剤による接着強度及び封筒体の入口部分における上紙と下紙の浸水に対する強度についても認められる旨の記載がなく、また、そのことが、明細書に記載がなくとも客観的に認定が可能な事項とも認められないところである。そのため、原告の上記主張は、明細書に基づかないものであることが明らかであるから、失当といわざるをえない。また、本願考案の登録請求の範囲においても、上紙、下紙及びその間の接着方法についての記載がなく、更に、それらが自明の事項であるとも認めることができないところであるから、原告の上記主張に係る本願考案の作用効果は、本願考案の構成に基づくものともいえないというべきであり、その点においても原告の上記主張は失当である。
(4) 更に、上記の点をさておくとしても、前出甲第4号証によると、先願明細書においては、封筒上票の構成として、「用紙」とポリプロピレンフィルムを一体に貼着した構成を採ることにより、配送中の雨や、擦れ等に対する強度を持たせることができる旨が記載されている(5欄12行ないし25行)とおり、先願考案における封筒上票をラミネート加工紙で構成した場合、それが、原告の上記主張に係る作用効果を奏することがおよそあり得ないとすることはできない。すなわち、封筒体の上紙と下紙の接着強度は、ラミネート加工紙自体の層間の接着強度、浸透する雨水の量、使用する接着剤の性能(甲第8、第19号証における実験の場合と異なり、非水溶性の接着剤を用いる余地もあり得る。)、封筒体の入口に加わる力(甲第8、第19号証における実験の場合と同様の力が通常加わるとは限らない。)等によって異なることは自明のことであり、そのため、本願考案の上紙にラミネート加工紙を使用した場合には、上紙と下紙との接着強度が弱く、光学読取表示について、上紙上での固定及びその適正な読取りを行うことが不可能になるとすることはできないものというべきである。
したがって、その点からも、ラミネート加工紙が本願考案の「合成紙」から当然に排除されるべきものであると認めることはできない。
(5) 以上のとおりであるから、原告の上記主張も失当である。
4(1) 更に、原告は、本願考案の登録請求の範囲の記載において、ラミネート加工紙の内部の接着状況(接着剤の使用状況)及びラミネート加工紙の下紙との接着面について明示がないことを挙げ、それが、本願考案の「合成紙」にラミネート加工紙が含まれないことを示すものであると主張する。
(2) しかしながら、原告の上記主張とは逆に、本願考案の「合成紙」にラミネート加工紙を含むものとした場合、ラミネート加工紙の全体を一枚の「合成紙」であるとみなし、その内部の接着状況を表示しないことも可能というべきである(その点において、本願考案における上紙、下紙と接着剤との関係とは異なる。)上、本願考案の「合成紙」には、ラミネート加工紙以外の単層の合成紙をも当然に含むことになるはずであるから、本願考案において、殊更、ラミネート加工紙の接着層や、下紙との接着面を特定して表示する必要はなく、ラミネート加工紙や単層の合成紙を合わせた1枚の「合成紙」として表示することで十分というべきである。
(3) そうすると、本願考案の「合成紙」において、ラミネート加工紙の内部の接着状況やラミネート加工紙の接着方向が明示されていないとしても、そのことが、上記「合成紙」にラミネート加工紙が含まれるか否かの点と結び付くものとはいえないから、原告の上記主張が失当であることは明らかである。
5 加えて、原告は、本願考案の登録請求の範囲の記載中において、「合成紙又は合成樹脂フィルム」とされ、「合成紙及び合成樹脂フィルム」とされていないことが、「合成紙」にラミネート加工紙を含ませない趣旨であると主張するが、原告がその理由として主張する事由を考慮しても、上記の記載が、必ずしも上記主張の結論に結び付くものとは認められないから、上記主張もまた失当である。
6 以上によれば、本願考案における「合成紙」が、先願明細書中に記載された、合成樹脂フィルムと天然紙とを貼着したラミネート加工紙を含むものではないとすることはできず、本願考案における「合成紙」を、先願考案におけるラミネート加工紙に一致するものとした審決の認定判断には誤りはないものというべきである。
第4 よって、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)
別表
甲号証の番号及び出所文献 記載内容及び該当箇所
5(株式会社紙業タイムス社昭和58年12月1日発行「オールペイパーガイド」) フィルム法合成紙として、内部紙化法及び表面塗工法による合成紙が記載され、ファイバー法合成紙として、スパンボンド法及び合成パルプ法による合成紙がそれぞれ掲載されているが、ラミネート加工紙は掲載されていない(合成紙の種類と製造方法を掲載している77頁の表参照)
6(ジェームスP・ケーシー編「パルプ及び紙、化学並びに化学技術」1979年発行) 「合成紙」については、「その根幹をなす構造部分が、合成樹脂からなる紙と同様の性質を示す生産品のことである。」(1163頁の本文1行~4行参照)と定義している。かかる定義によれば、合成樹脂が、セルロースによる天然紙に、塗布、侵食又は積層等の操作によって付加されることによって得られるラミネート加工紙は、除外される。
7(株式会社紙業タイムス社発行「紙パルプ技術タイムス」1984年1月号) 甲第5号証と同じ(38頁~39頁の合成紙の種類と製造法の記載部分参照)
10「JISハンドブック紙・バルブ」(1985年4月12日財団法人日本規格協会発行) 合成紙について、「合成高分子物質を主な素材とし、従来の紙的用途に用いる為、これを紙化加工したもの。」と定義している。かかる定義を基準とした場合、本来ラミネート加工紙においては合成樹脂フィルムが使用されているが、当該合成樹脂は決して「紙化加工したもの」に該当しない以上、前記定義では、ラミネート加工紙は除外されている。
11(石油化学工業研究所昭和44年12月20日発行「合成フィルムの総合調査」) <1>構造によって分類された「合成紙」として、合成樹脂フィルム又は繊維を加工して製造する通常の合成紙のみが掲載され、ラミネート加工紙は掲載されていない(399頁の一覧表参照)。<2>合成フィルムと紙とのラミネートの状態は、ラミネートフィルムの趣旨として掲載されており、合成紙の項目に掲載されていない(281頁参照)。
14(紙パルプ技術協会発行「紙パ技協誌」昭和61年12月号) 甲第5号証と同じ(22~23頁の合成紙の種類と特性の項参照)
15(紙パルプ技術協会発行「紙パ技協誌」昭和62年10月号) 甲第5号証と同じ(149頁の表1参照)
16(株式会社工業調査会1988年10月1日発行「機能紙」) 合成紙の定義として、「合成樹脂を主原料として、その特徴を残しつつ、天然紙のもつ種々の性質-特に外観(白さ、不透明性等)と広範囲の加工適性を付与したもの。」と記載している(256頁の「合成紙の作り方」の<1>の部分参照)が、当該記載では、ラミネート加工紙は除外されている(ラミネート加工紙の場合には、合成樹脂を主原料としない場合もあり得ると共に、合成樹脂フィルムは、外観及び加工適正等において天然紙が有している性質が付与されている訳ではないから。)。
17(雑誌「Chemi to bia」1994年1月号) 「合成紙の厚み分布を示す図面」において、合成紙とラミネート加工紙とを別扱いとしている(40頁の図7参照)。
18「繊維学会誌」(平成4年6月号:第48巻第6号) ラミネート加工紙「オーバー」に関する紹介部分において、「一般フィルムや合成紙にない折れの良さを持っており、包装や製本の過程で機械による折り作業にも適していると言えます。」(304頁左欄下から14~12行)、「インクの乾燥性も使用する樹脂の選択、無機フィラーの配合効果により、フィルムや合成紙に比べて早くなっており(304頁右欄下から16行~14行)、と記載しており、ラミネート加工紙(オーバー)が合成紙と異なる紙であることを前提とした記載内容となっている。
20ポリマー辞典編集委員会の編集による「ポリマー辞典」(大成社出版部昭和45年9月1日初版発行) 「合成紙」について、「合成高分子物質を主な材料とし、紙的性質を与える加工をしたもので、紙的用途に使用されるもの。スチレンペーパー、Qコート(商品名)等もこれに含まれる。」と定義しており、このような定義によれば、ラミネート加工紙は「合成紙」に包含されない。尚「スチレンペーパー」は、スチレンを原料とする特種な製造工程に基づく狭義の「合成紙」に該当し、「Qコート」は、フィルム表面にピグメントコート(微多孔層)を設けた狭義の「合成紙」に属している。
21高分子学会高分子辞典編集委員会編「高分子辞典」(株式会社朝倉書店昭和46年6月30日初版発行) 「合成紙」について、「合成高分子物質を主な素材とし、これに紙的性質を与える加工をしたもので、紙の用途に利用される。」と定義しており、当該定義によれば、ラミネート加工紙は「合成紙」に該当しない。
22紙パルプ技術協会編「紙パルプ事典」(平成元年9月20日金原出版株式会社第5版第1刷発行 「合成紙」について、「合成樹脂素材から作られたシート状のもののうち外観が紙に似ており、紙の特性(印刷性、筆記性、不透明性)を備えたものをいう。大きく分けてフィルム法とフィラメント法があり、フィルム法は内部紙化、又は表面紙化により印刷性、筆記性を与える。フィラメント法は紡糸したフィラメントを乾式又は湿式法でシート化したものをバインダー又は熱で結合させる。狭義にはフィルム法のものを合成紙とし、フィラメント法のものは不織布とするが、広義には合成パルプも合成紙とすることがある。」と定義しているが、かかる定義によれば、ラミネート加工紙は、「合成紙」に該当しない。しかも、「合成紙」の概念を拡張した場合の「合成パルプ」はラミネート加工紙に該当しない。
別紙図面(1)
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別紙図面(2)
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